Caravaggio(Michelangelo Merisi) 1571-1610
鎌首をもたげてこっちを威嚇しているヘビは、1メートルぐらいはあるかな、、けっこう長い。沼からあがったばかりのワニの皮のようにゴシゴワの皮膚。そんなに太くはない。でも細くもない。鎌首の先についている頭は、ふつうに想像するよりちっちゃくて、そのためにかえって獰猛そう。
ヘビは、競技場のトラック脇の芝の上からこちらをにらんでいる。競技場のまわりはさらにぐるりと土手で囲まれていて、こちらはその土手の上からヘビを見下ろしているので、距離的な安心感もあって、足でズンズンズン、ドカドカドカ、、やってみたけれど、ヘビは、もたげた鎌首を引っ込める気配をいっこうにみせない。
びょよ〜んと飛んできて、それであんなのにかまれたら全身がしびれて死んじゃうんだろうなぁ。。いずれにしても、時間のモンダイで、ヘビもさいごは退散していくなんてのはわかってる。そしてじっさいにヘビは、競技場と土手のあいだにある排水溝のなかにゆうゆうと、けっして急ぐことなく消えていった。それにしても・・・
「うわあ、、ヘビだぁ、、、」なんて言いながらうれしそうに近づいていくこどもたちのような勇気はないし、「ヘビなんてこわくないよ」と言えるほどの人生経験もない。「見たくもないワ」なんて言うにはあまりにもヘビが怖くて、怖いもの見たさの好奇心をおさえきれないし、棒でヘビの頭をおさえて遠くにぶん投げるなんて、かんがえただけでもゾッとする。
ただこのときは・・・獰猛そうなそのヘビとみらみ合っていることで、「恐怖心」を媒介にして、ヘビとじぶんがまるで別次元の世界にスリップしちゃったみたいな・・・ものすごくプリミティヴ(原始的)な風景のなかにじぶんが入り込んでいることを感じさせられた。日常生活とはかけ離れた原始的なエモーション(感情の高揚)がワンワンと心のなかに蘇ってくるようで、ちょびっと新鮮なカンドウ。
あああ、、!もしかするとカラヴァッジョが好きだったのは、コレ?!
1500年代おわり〜1600年代はじめにかけて、アートの世界に旋風を巻き起こしたカラヴァッジョは、実生活においても、そのアートにおいても、かなり暴力的なひとだった、とおもわれてます。
恐怖心をあおられるようなことが起こるたびに、水を得た魚のように喜び勇んでそこに飛び込んでいった・・・そしてケンカ、ケンカ、ケンカ、ケンカ・・・。また、カラヴァッジョは残酷なシーンを好んで描き、拷問、首切り、馬に踏まれるひと、溺死した女性など、その描写はホラーまがいともおもえるほどリアルというか挑発的。
しかしそれは、カラヴァッジョが暴力的だったからというのは、たぶん表面的な説明でしかない。アーティスト、カラヴァッジョをワクワクさせたのは、色恋、出世、戦争の大義に頭をひねることではなく、恐怖心と背中合わせの、プリミティヴなエモーションを感じることだった、、、そういう激しい原色の世界に、カラヴァッジョは宇宙を支配するを普遍的な法則を見、「美しさ」を感じ、そして生きているという実感を得ていた、、、
ねっ、、?!ちょうど、ヘビと「にらめっこ」してるときに、ヘビもろとも別次元の世界にまぎれ込んだみたいでドキドキしたような、、、カラヴァッジョはそういう体験の常習者だったんだよ、きっと。。な〜んて、、フト、そんなことをおもったのでした。
(2004.06.23.)
※ ファイル中の画像: 「メドゥーサ(1597年ごろ)」部分 フィレンツェ・ウフィツィ美術館