実在した3人の画家をめぐるアドリブ
Honore de Balzac(1799-1850 )
"Le Chef-d'oeuvre inconnu/The Unknown Masterpiece(1831)"
老画家フランオーフェル(Frenhofer)は、生涯をかけてただ一枚の究極の作品を描きあげようとしていました。そしてついに出来あがった作品は、ただ絵の具が塗りたくられているだけのシロモノ。
「なにも見えないよ」とおともだちの画家に言われたフランオーフェルは、その晩、作品を燃やしてなぜか死んでしまったとサ、ってなオハナシです。もちろん現代絵画などではありませんよ〜。1600年代のパリでのこと。
フランオーフェル自身は架空の人物ですが、この短編小説にはフランオーフェルをめぐって3人の実在した画家が登場します。
まずマビューズ(Mabuse / Jan Gossaert, Gossart 1478?-1533/36)。マビューズはローマに学んだ北方ルネサンスの雄ですが、ちょっとバロックっぽい絵を描くひとです。フランオーフェルはマビューズの唯一の弟子だと称し、しきりにセンセーのことを問わず語りにまくしたてます。
マビューズ作品(Web Gallery of Art)
http://www.wga.hu/frames-e.html?/html/g/gossa..
うえの作品もマビューズ作・・「聖母子を描く聖ルカ」部分
もうひとりはフランオーフェルのおともだち、やはり老画家のポルビュス(Frans Pourbus 1577-1622)。
フランス・ポルビュスはアントワープ生まれ。兄とともに父親の元で修行したあとブリュッセルでスペイン王室に仕え、マントヴァ公(イタリア)の元ではルーベンス(Peter Paul Rubens 1577-1640)とともに働いていました。そののちフランス王アンリ4世(1553-1610)のもとで宮廷画家を勤め、アンリ4世の妻マリ・ド・メディシスは、ポルビュスが死ぬとその替わりにルーベンスを迎え入れています。
フランス・ポルビュス作品(Web Gallery of Art)
http://www.wga.hu/frames-e.html?/html/p/pourb..
ポルビュスはフランオーフェルの才能を高く買っていました。でも・・「フランオーフェルは裕福なために余分なコトを考え過ぎる。画家は絵筆のなかに答を見い出すべきだ。」などと穏やかな調子で語ったりします。
そしてポルビュスが穏やかに語りかける相手が、3人目の画家ニコラ・プサン(Nicolas Poussin 1594-1665)です。若きプサンが恋人ジレットとともに登場することで、このおはなしがとてもイキイキとしています。
ニコラ・プサン作品(Web Gallery of Art)
http://www.wga.hu/frames-e.html?/html/p/poussin/index..
右は「プサン自画像部分(1650年 Musee du Louvre)」
短編小説は、短いがゆえにかえって、読了後にいろいろな想像をかきたてますね。もしこれを映画化したら・・?!
マビューズの元で修行をしているフランオーフェルあたりからはじめて、マントヴァ公の元でルーベンスとともに描いているポルビュス、1600年代のパリ、居酒屋で談笑するプサンと老画家たち・・もうこれだけでじゅうぶんに魅力的。さいごは無難に、フランオーフェルが狂喜のさなかアトリエに火を放って作品もろとも消滅してしまう・・
でもどんでん返しとかも欲しいなぁ〜。フランオーフェルのモデルになったプサンの恋人ジレットがなぜか消えてしまって・・ついでにフランオーフェルも消しちゃおうかな。唖然として立ちつくすプサンと老画家ポルビュス、そのかたわらに仕上がった作品がひとり燦然と輝いている、とか・・
そうだそれならいっそのこと、フランオーフェルと愛人(!)ジレットがトツゼン現代に現れて、その作品を前にして、カメラのフラッシュやらひとびとの絶賛やらを満身に浴びているシーンからはじめたらどう?
あるいは、フランオーフェルは作品ごと忽然と現代に現れるんだけど、フランオーフェルが作品を仕上げようとしたときになにかフシギな力が働いて、ジレットは絵のなかに閉じ込められている。マジックを解いてすべてを元に戻すのには、プサンがそれを超えるような傑作を描かなければならなかった、なーんてのはダメ?エクスキュゼ・モア、バルザック爺。
(2003.08.20.)
※ ピカソが『ゲルニカ』を制作したのはフランス・ポルビュスのアトリエ、グラン・ゾギュスタン街7!ピカソも好きだったんですね、このおはなし。
『知られざる傑作』をモチーフにした映画 "La Belle Noiseuse 1991" - 邦題『美しき諍い女(いさかいめ)』
http://www.moviemartyr.com/1991/labellenoiseuse.htm
http://www.movieconnection.it/schede/bella_scontrosa.htm
http://www.emmanuellebeart.ndirect.co.uk/lbn.htm
■ マントヴァ公の妻イザベッラのコレクション
■ パウル2世美術館/聖母子像展にマビューズ作品がありました。
ヤナイさん 2003.09.03.
デュラス「アガタ」はあんまり一般的な本ではないような気がするけれど、バルザックなら、だれにでもすすめられますよね。「知られざる傑作」も、抽象画とかない時代なのに、まるでそれを見越していたかのようなふしぎな作品。
それほどたくさん読んだわけじゃないですが、「ゴリオ爺さん」は傑作だと思います。これほど人間を深く洞察し(相当の悪意を込めて)た作家はなかなかいない。
えかきのき 2003.09.04.
バルザック、というのは読めなかったなぁ〜。いまなら読めるかもしれない、って気はするけど・・。それにしても、バルザックは51才(1799-1850)、モパッサンは43才(1850-93)、、小説のスタイルと人生の短さにちょっとしたギャップ〜。