EKAKINOKI

シュクシンもいいけどプラトーノフ、

シュクシンもいいけどプラトーノフ、ヴァシーリー・シュクシン(1927-74)は、役者、小説家、映画監督。人気もあったけれど物議をかもす面もあり、どこかヴィソツキー(ミュージシャン)やタルコフスキー(映画監督)のようなパーソナリティーのおもしろさを感じます。それでひとつシュクシンが書いたものを読んでみようか、という気になりました。シュクシンの小説に『あかいカリーナ(1973年)』というのがあります。

レストランで札束を手にして「どんちゃん騒ぎやりたいんだけど、ねえちゃんにいちゃんわんさか集めてくんない?」とウェーターに頼みこんでいるシーンとか、「ん?・・どっかでこんな描写があったぞ。なんだったかなー。アメリカ映画だったかなー。」・・とかおもっているうちに、さいごのほうになって、この作品が映画化されたものを以前ロシアのTVで見たことがあるのに気がつきました。

マフィアがらみで、ピストルばんばんぶっぱなして、カンタンにひとが殺されていくような映画はいまのロシアに満ち溢れているので、そんな映画のひとつだろうぐらいの気分でなんとなく見流していたのです。まさかそれがシュクシンの『あかいカリーナ』だとはおもってもみませんでした。

シュクシンはモンゴルに近いアルタイ地方の出身です。経済的にかなり苦労して育ったようで、いろいろな雑役もしていたみたいです。大検のような試験をパスし、モスクワの国立映画大学を終了。同級生にはタルコフスキーがいました。国立映画大学に入るための口答試験にのぞんだシュクシンの応答がおもしろい。

『試験の大詰めは、受験生の恐れる『戦争と平和』に関する、ミハイル・ロム監督恒例の口答試問であった。質問に答えてワシーリイ(シュクシン)は読んだことがないといってのけた。居並ぶ試験官の唖然とした表情をまえに、理由をきかれて「えらく分厚い本だもんで」とワシーリイはとぼけた。試験管の多くが彼のはまり役とみた、田舎者を逆手にとった農民の知恵であった。(『あかいカリーナ』島田陽訳/恒文社の解説文より)』

シュクシンもいいけどプラトーノフ、シュクシンの『あかいカリーナ』はさいしょから映画にすることを考えて書かれました。田舎の描写、主人公エゴールを取り巻くヤバイ人間関係、いま作られた映画かと見まちがうほどの現代性があります。1970年代にこういう作品を書いていたというのは評価すべきかもしれません。しかしこのような映画は、いまのロシアにはたくさんあるのです。「それでもシュクシンの『あかいカリーナ』なんだ。」というほどのインパクトがあるかどうか・・。

体制にかみつくようなヴィソツキーの歌詞も当時はひじょうに強烈だったでしょうが、これだけロシア語がみだれてくると、さらにそれを聴きたいとおもうかどうか・・というのとすこし似ている。

またひょっとすると、シュクシンの『あかいカリーナ』はショーロホフの『静かなドン』に似ているかもしれません。ショーロホフの『静かなドン』はロシア革命をコサックの立場から語りました。そしてシュクシンの『あかいカリーナ』は、田舎者の目でソヴィエト社会の現実を語っています。しかしそれなら・・砂漠の貧者となり果てた民族を、おなじ民族の若者の言葉で語っているアンドレイ・プラトーノフ(1899-1951)の『ジャン』のほうがもっと強烈。以下『ジャン(原卓也訳/集英社)』より引用。

『彼女は息子に、何かをくれないかと頼んだ。もらえる当ても欲もなく、ただ、自分のところに品物がふえ、それによって生活の忙しさが増すよう、そのためにだけ、おずおずと頼んだのだった − そうすれば、人生の時間がもっと円滑に流れて行くからだ。』

『だいたい一羽や二羽の鳥で、空腹がみたされるとでもいうのだろうか?そんなことはない。しかし、むしった一片の鳥肉をだれもがもらえば、彼らの悲しみは喜びに転じ得るのである。・・・・・そして彼らは自己の生存を思いだすのである。』

『お前は永い間わしらに死ぬことを教えこんできた。わしらも今じゃすっかり慣れたから、みんなで一遍にやってきたんだよ。わしらがまた忘れちまわないうちに、みなが楽しんでいるうちに、早く死を与えてくれ!』

(引用おわり)

これからも読みつがれていくだろう20世紀ロシア文学者のほとんどは、多かれ少なかれソ連政府のいじめにあっています。ソルジェニーツィン、ブルガーコフ、ザミャーチン・・みんないびられました。プラトーノフもそのひとりです。比較的最近のロシアものをなにか読んでみようという気分になったら、シュクシンの『あかいカリーナ』もわるくないけど、プラトーノフの『ジャン』もいいゼ。

(2003.02.17.)

※ ファイル中1番目の画像はミサイェードフ(1834-1911)の作品部分(トレチャコフ美術館)。

かんれんファイル

■ タルコフスキー
■ ヴィソツキー

BBSから

マスクさん 2003.06.06.

「ヴァシーリー・シュクシン」で検索したところ、ここに辿り着きました(^^; 私は今、ロシアに留学中です。大学でロシア文学を勉強しているため、なにかとロシアの作品を読む機会があるのですが、やはりロシア語で読むともなればかなり難しいです。

私は、多くのロシア人作家の中でもシュクシンの作品が好きです。「赤いカリーナ」はまだ読んでないのですが、短編をいくつか読みました。とても短いのですが、大事なことをしっかり書いてくれるので好きです それで、この夏一時帰国する際に、日本語訳のロシア文学の本を買ってみようと思っているのですが、シュクシンの「赤いカリーナ」はどうやって手にいれることができますか?やはり、通販になりますかね

えかきのき 2003.06.06.

読みたい本をリストアップしといて、図書館(日本)で検索してもらうと、そのうちのいくつかは見つかるとおもいますよ。翻訳の好き嫌いまではあまり言えないけど・・でも翻訳があるというだけでありがたいことはありますよね。 買うんなら、ネットで注文したほうがはやいかもね。あるいは本屋に取り寄せてもらうとか、どっかにはあるんじゃない?わたしは図書館で借りました。シュクシンの『赤いカリーナ』は、気をつけているとテレビでも(ロシア)よくやってますよね。

マスクさん 2003.06.07.

スパシーバ☆ えかきのきさんの方法でどうにかこうにか手に入れたいと思います。 そうそう、テレビでも「赤いカリーナ」やってますよね。私、いつも途中からとかしか見てなくて・・・。映画にはシュクシンと彼の奥さんが自ら出演してるんですよね。今度は、見逃さないようにしなきゃ!と思ってます。

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