監督のニキータ・ミハルコフは、「アメリカっぽい映画をつくるヤツ」としてロシア人のなかには敬遠する人もいます。でも、ロシアのベルトルッチとも言えるような、国際的な映画人であるのは、だれも否定しないでしょう。
映画『シベリアの理髪師』は、革命真近の、政情穏やかならぬ帝政ロシア時代(1800年代後半)が舞台・・・町なかを馬車で行く将軍が爆弾テロにあうという場面からフィルムがはじまります。

知的エリートでもあったロシア皇軍士官候補生、禁酒していた将軍がヴォッカを浴びるように飲んで、厳寒の氷の上ですっ裸になって懺悔するユーモラスな姿、ロシア人の見栄と誇り・・・当時のロシアの雰囲気がそれなりによく表現されているとおもいました。
主人公の士官候補生トルストイは、ロシアを訪れていた金持ちのアメリカ人女性とかりそめの関係をもつ。しかし計算高い彼女は、それはそれとして、将軍の女になります。純情なトルストイには堪えられない仕打ちだった・・・
士官候補生によるモーツァルトの『セビリアの理髪師』でトルストイは主役を演じ、そのさなかに舞台から跳び降りて、観劇中だった将軍をむちで打ちのめしてしまいます。
トルストイは捕らえられ、そして順当に、、シベリア送り。足かせをはめられ、他の囚人たちとともに、町なかをシベリアゆきの駅まで行進。そのことを聞きつけた親族や士官学校の級友たちが駅に駆け付けます。駅は厳戒体制で、中には入れません。
シベリア行きの汽車がホームを出はじめると、警備が解かれ、級友たちが群集をおしわけてホームになだれこみます。
窓もほとんどない護送列車は囚人でぎゅうぎゅうづめ。どこにトルストイがいるかなんてわかりません。
「トルストーイ、トルストーイ!」
級友のひとりが『セビリアの理髪師』のアリアを歌いはじめました。それを聞いたトルストイが、列車のなかで声を合わせます。級友たちと最後に演じたオペレッタ・・・
映画のシーンから・・・
http://www.marat-basharov.narod.ru/foto_3.html
ロシア人の反応はさまざま。
レベジ将軍とも働いた軍人出身のある会社社長はこう言いました・・・「ロマンチックだとか美しいとかうんぬんはさておき、私に言えるのはひとつだけ・・・主人公がとった行動は、欧米人だったらパニックになるかもしれないけれど、ロシア人にはごくふつうの行為だ。」
恋愛のプロセスに説得力が欠けるとか言うひともいます。でも、主人公たちのひたむきな姿はやはり魅力的。比較的若いひとたちには好評で、それ以上の年齢層のロシア人たちはかなりさめた目でこの映画をみているかな、、、
たぶん、、いっぺんそういうひたむきさを人生で経験し、政治体制の崩壊とともにそれが音をたてて崩れ去ったのを見てきた40代以上の人たちと、ソ連崩壊後の不安定な社会のなかで夢中になれるナニカを求めている若いひとたちとの違いでしょうか、、?(だから士官に憧れるというのはあまりにタンジュンだけど・・)
(2001.09.26. 点検)(2002.04.30. 見直し)(2003.01.27. 見直し)
※ 「シベリアの理髪師」は、1999年、第52回カンヌ映画祭の招待作品で、開幕作品として上映されました。ロシアでは「タイタニック」をうわまわるヒットを記録しています。(ちなみに、ミハルコフ自身ばかりでなく、彼の娘達も作品中に登場しています。)2000年9月下旬より上映 有楽町スバル座他、全国ロードショウ
※ トルストイはシベリアで理髪師になったので、セビリアならぬ『シベリアの理髪師』です。
■ ミハルコフ、メモ