分かったようでいつまでもしっくりこない疑問というのが、ロシアにはいくつもある。「ロシア人の給料ってなんぼ?」というのもそのひとつ。50ドルとか100ドルの給料でなんで毛皮のコート何枚ももってるの?給料らしい給料もらってないのにみんななんとか暮らしているのはナゼ?で、今回はとっておきのサンプルをもってきた。
ニカライ(仮名)はある大学の言語学教授。飾りっ気がないひと。50才をすこし越えてる。妻と、16才の子供がひとり。モスクワ市内の3DKアパート(日本でいうと団地みたいなもんで、ロシアではもっとも一般的なスタイル)に住む。
いまのロシアでいい給料をもらっているのは、いい目にありつけるポストにあるひとのほかは、新設民間大企業の社員(そのおおくは外資系)ぐらいで、そういうとこは若いピチピチのひとたちをとりたがる。ニカライにいくら実力があっても年齢オーバー。国から給料をはぐれることなくもらっているニカライは、モスクワ市民のごく一般的なケースとかんがえられる。不満はいくらでもあるけれど、なんとかやってる。
日本では、この年代のひとは常識的で人間的な給料をもらって、すでに貯えもあるていどできているはず。ソ連が崩壊していなかったら、ニカライの人生計画もそれなりに実現していたはずだった。それが・・・いまのロシアでは、教職、医師などの国家公務員は、スズメのなみだほどの給料しかもらっていない。さらに、ニカライが海外勤務していたときにためたドルは、ロシアのハチャメチャな金融政策で一夜のうちに紙屑になった。
ニカライが学校側からもらう公の給料・・・・・
5000ルーブル(約170ドル=2万円)。「5000ルーブルが、モスクワでまあまあ人間的な生活のできるレベルだ。」とニカライは言う。ときには演劇にもいかれるし、レストランで食事をすることもかんがえられなくはない。車が欲しければ買えないこともない。でもこれは「ひとり」の場合。
ニカライは3人家族。だから15000ルーブル(約500ドル=6万円)なくてはならない。だから、みんなが働いているというのが理想だけれど、働いていてもそれだけの給料をもらえるとはかぎらないし、じっさい、ニカライの家族はこの2万円で食いしのいでいる。
生活費のうちわけ・・・・・
電気・ガス・水道・電話・ゴミ処理などの基本的なお金約1000ルーブルを、毎月10日までに払わなければならない。いまはまだ市内電話も無料なので、基本料だけですむが、重量課金制度のインフラは容赦なく整いつつある。
それが実行され、、生活の基本料1000ルーブルが、100、150ドルになったとき、市民の大部分は払いきれないだろう。モスクワの年金生活者は恵まれているといっても、一般的には100ドルに満たない額で生活している。「なんでも金を払え」という原始的な政策からは、「生き残れるヤツだけが生き残ればいい。それ以外のひとは消えてください。」といっているとしかおもわれない。
いちばんお金がかかるのは・・・・・
なんといってもこどもの養育費だそうだ。まず学校に払う基本料みたいなものが500ルーブル。うちわけは教材と諸施設の維持費。このほかに給料のほとんどない教師の収入源となる補修授業がある。英語の補修授業で、1時間10ドル(約300ルーブル)。
「あんたの息子さん英語の補修授業受けないととてもついていけません。」といわれて断れる親はあまりいない。この収入源のためにあえて点数を低くつけるなんてことも日常茶飯事。
さらにニカライの息子は大学進学にそなえて大学付属の準備コースにも参加している。これも一般的。育ち盛りのこどもにかかる衣服代も安くない。流行の靴だって欲しがる。
つい最近ニカライが買った自分の靴が約20ドル(600ルーブル)。何年かに一回新調する背広が約50ドル(1600ルーブル)。奥さんの誕生日にプレゼントした時計が約40ドル(1200ルーブル)。すべてロシア製。どこに行ったらその値段で買えるかという情報にはみな精通している。
ちなみに、、ビール一本0.5ドルぐらい(15ルーブル)。たばこ1ドル。コーヒー0.7ドル(20ルーブル)。(コーヒー約100円って安いとおもう?ロシアの経済水準からしたら高い!カフェではない。喫茶コーナーみたいなところ。しかもかならずといっていいほどインスタントコーヒー。)
残りのお金から食費をねん出する。レストランや観劇までする余裕はない。それでもなんとかやりくりして、夏にはこどもを黒海の休暇村まで行かせた。ニカライ自身たまには休暇もとる。黒海までは行けないが、モスクワ近郊の休暇施設でスキーをしたりする。車も買えないことはないが、維持費までねん出するのはまだ無理だという。えっ、、
これぜんぶを5000ルーブル(約170ドル=2万円)でやるの〜?!
不可能ではないかもしれないが、かぎりなくむずかしい。ここに「ナゾ解きのカギ」がある。じつは(!)、ニカライの収入はこれだけではないのだ。
公の収入以外に、いくつかまだ収入源がある。ニカライの場合は教えるのが仕事だから、、個人授業、大学のサマーセミナーを組織したときに受ける報酬、、
最終的に、、ニカライの収入は月250〜400ドルぐらいあるという。もちろん月によっては100ドルそこそこなんてこともなくはない。そこらをうまく案配して、月150ドルぐらいは、食費にあてられるんだそうだ。ニカライはそういう立場にはないが、多くの大学で入学にさいしてのワイロなんてのも衆知の事実。
これがたぶん、、ナゾの正体だろう。家族のなかのだれかが、そのときどきでどっかからお金をねん出してこなければ、何年も給料のない国家公務員やエンジニアなんてやってらんない。こうして、ヤミのなかでお金がうごいている。車をもっていれば、ちょっとひとを乗せてあげて1ドル稼げる。ヤミ経済のスケールがどのぐらいかも、、なんとなく想像がつく。
いまニカライは別荘が欲しいという。モスクワから100キロメートルぐらいのところで2000ドル〜3000ドル。それより遠くになればなるほど安くなる。でもこれは、自給率を高めるためではない。これだけ遠くにあると、電車賃かけて収穫するよりは店で買ったほうが安いという。町の喧噪を離れて土をいじったりするのが個人的に好きだから。もっともいまのところ、奥さんから「マッタ」をかけられている。
(2001.09.13.)(2004.12.07. 見回り)
※ ファイル中の画像:(上)リソフ作品 (下) エヴゲーニー・イザシーモフ作品
■ イクラ缶とロシアの通貨政策